旧正門の南柱に見られる魚とPXの組み合わせ文字は、初期キリスト教の時代から用いられたシンボルです。なぜ魚が用いられたかというと、「イエス?キリスト?神の?子?救世主」をギリシア語で綴り、5つの頭文字を順に組み合わせると「魚」(ΙΧΘΥΣ、イクテュース)という単語になるからです。魚にかかわる話は聖書にもしばしば登場します。大魚に呑まれたヨナが3日後に吐き出された話、イエスが5つのパンと2匹の魚で5千人に食事を出した奇跡、「あなたは人間をとる漁師になる」と言ってペテロを弟子とした話など。ここでは魚は「死と復活」、「聖体」、「キリスト教徒」などを暗示しています。その他、「洗礼」や「救済」をも示唆し、魚はキリスト教のシンボルとして用いられました。
一方、下の組み合わせ文字はギリシア語でキリスト(ΧPΙΣTOΣ、クリストス)と綴ったときの最初の2文字で、コンスタンティヌス帝とかかかわるエピソードが有名です。皇帝は313年にキリスト教を公認しましたが、その前年にマクセンティウスと皇帝の位をめぐって戦いました。エウセビオスの『コンスタンティヌスの生涯』によると、皇帝がいかなる神に祈願すれば勝てるのかと案じていたところ、真昼の天空に「これにて勝て」という文字とともに十字架を目撃しました。さらにキリストが夢に現れ、このしるしを護符として戦うよう勧めます。その十字架の縦棒の先端についた花冠に描かれていたのがPXの組み合わせ文字でした。
(キリスト教文化研究所 渡辺 浩)