第6回 ネロ少年が見たかった絵

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第6回 ネロ少年が見たかった絵

最愛のおじいさんを亡くし、放火の濡れ衣まで着せられ、親友アロアにも会わせてもらえない。その上、思い出が詰まった小屋も追われ、唯一の希望だった絵のコンクールにも落選してしまうー。ネロは、凍てつくクリスマス?イブの夜、ようやくたどり着いた大聖堂で、かねてより見たいと切望していた絵を見ながら、パトラッシュと共に静かに息を引き取ります。

童話「フランダースの犬」の主人公ネロが息を引き取る間際に見つめていたのが、17世紀バロック絵画の巨匠ルーベンスの描いた「キリスト昇架」と「キリスト降架」2作品です。縦4m×横6mを超すこれらの作品は、ルーベンスの名を確固とした彼の出世作です。等身大に描かれた人物や彼らの身につける当時最新のファッションは、圧倒的な現実感?臨場感を伴って鑑賞者の前に迫ってきます。キリストの磔刑を鑑賞者に体験させることが彼の狙いのひとつだったのでしょう。その意味で、ルーベンスの作品はまさに「肉となった神(ヨハネ1:14)」の姿を描き出したものに他なりません。

「フランダースの犬」の舞台となった19世紀において、この作品を見るために銀貨一枚という観覧料が必要とされ、普段は幕が掛けられていました。作中、ネロは「あれを見られないなんてひどいよ、パトラッシュ。ただ貧乏でお金を払えないからといって。…あれを見られるなら僕は喜んで死ぬよ。」とまで言っています。第二次世界大戦後、観覧料が見直され、誰でも無料で見られるようになったのは、薄幸な少年ネロに対するせめてもの慰めだと言えるでしょうか。


(キリスト教文化研究所 松村 良祐)

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